「まさか」シルクは笑った。
「じゃあそれでわかった。たぶんぼくはおばさんと同じ人種だよ」
 シルクは鋭くガリオンを見た。
「なんといっても、ポル母乳餵哺おばさんはぼくのおとうさんの姉さんなんだから。おかあさんの親類かと思っていたけれど、それはまちがいだった。おとうさんのほうだったんだ。今わかったよ」
「それは不可能だ」シルクは感情のない声で言った。
「不可能?」
3

「問題外だよ。とうてい考えられない」
「どうして?」
 シルクはちょっとのあいだ下唇をかんでいたが、やがて短く言った。「荷馬車にひき返そう」
 二人はきびすを返して、酷寒の中を背中にきらめく朝日を斜めにうけながら、薄暗い木立を歩いていった。
 一行はその日一日裏道を進んだ。午後もおそくなって太陽が西の紫色の層雲の陰に隠れはじめた頃、ミンガンのハムを積む予定の農場に到着した。シルクはでっぷりした農夫と話をし、ダリネでミンガンから渡された一枚の羊皮紙嬰兒敏感を見せた。
「ハムが片づいてやれやれだ」と農夫は言った。「倉庫が占領されて困っていたんでね」
「トルネドラ人と取引きをしているとよくあることですよ」シルクは言った。「かれらは支払う代価以上のものをせしめる才能がありますからな――たとえそれが他人の倉庫をただで使用する場合でもね」
 農夫はうかぬ顔であいづちをうった。
 シルクはふと思いついたように言った。「ところで、わたしの友だちを見てやしませんか――ブリルというやつですが? 中肉中背で黒髪に黒いひげ、片目が斜視の?」
「つぎだらけの服を着たむっつりした男かね?」肥った農夫はたずねた。
「そうそう」
「この近辺をうろついてたよ。なんでも――老人と女と少年を捜しているとか。その三人が主人からものを盗んだんで、見つけだしに送りだされたんだと言ってた」
「それはどのくらい前のことです?」
「一週間かそこらだ」
「すれちがいになって残念だな。かれを捜し出す暇があるといいが」
「わたしにはとんとその理由がわからないね」と農夫はぶっきらぼうに言った。「正直言って、あんたの友だちに好感は持てなかったよ」
「わたしだって大好きというわけじゃありませんよ」シルクは同意した。「いや、じつはやつに少々金を貸してあるんです。ブリルなんかいなくたってどうってことはないが、金は恋しいのでね、この意味わかるでしょう」
 農夫は笑った。
「やつのことをたずねたのを忘れてもらえればありがたいんです。わたしが捜していると警告されなくたって、なかなかつかまらないやつなんでね」
「信用してくれていい」と肥った男はまだ笑いながら言った。「あんたと仲間の馬車ひきが一晩泊まれる倉庫がうちにあるし、あっちの食堂であんたがたがうちの労働者たちと一緒に夕めしをたべてくれたらうれしいよ」
「ありがたいことで」シルクは軽く頭をさげた。「地面は冷たいし、ここしばらくみんなろくなものを食べていなかったんですよ」
「あんたら馬車ひきの生活は冒険だからな」どうらやましそうに言った。「鳥のように自由で、次の丘の向こうにはいつも新しい地平線がある」
「それは買いかぶりすぎです。それに冬場は鳥にも馬車ひきにも辛い時期だ」
 農夫はまた笑い声をあげてシルクの肩をたたくと、馬たちをつなぐ場所へかれを連れていった。
 肥った農夫の食堂で出された食べ物は素朴だったが、量はたっぷりあった。倉庫は少し隙間風がはいったものの、干草は柔らかだった。農園はファルドー農園ほどではなくても、じゅうぶん友好的で、再び周囲に壁があるという心安らぐ意識が、ガリオンに安堵を与えた。
 翌朝、充実した朝食をすませると、一行はトルネドラ人の塩のきいたハムを荷馬車に積み、農夫に心からの別れを告げた。
 前日の夕方西の空にわきあがっていた雲が夜のあいだに空をおおい、どんより曇った寒気の中をかれらは五十リーグ南のミュロスめざして出発した。